古川 良明
慶應義塾大学・理工学部(矢上)・教授
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本領域の主題である硫黄は、金属イオンと高い化学的親和性を持つことから、生体内では必須微量金属の動態制御に関与すると考えられ、硫黄と生体内金属の相互作用に焦点を当てた研究が求められています。本課題では、細胞内で銅イオンを運搬する「銅シャペロン」の超硫黄化に着目し、特に、銅シャペロンの機能を酸化的な障害から保護する役割を明らかにすることで、「硫黄生命科学」の確立に貢献します。より具体的には、銅シャペロンの銅イオン結合部位を構成するシステイン残基において、超硫黄化が銅イオン結合に及ぼす機能・構造的な影響を明らかにし、酸化による銅シャペロン機能の不活化を防ぐメカニズムを提案します。銅イオン動態の異常は多くの神経変性疾患における病理学的変化の一つであることから、本課題の成果は、超硫黄を介した銅シャペロン機能の回復に基づく神経変性疾患の治療法開発へと応用的に展開でき、生命現象を司る金属と硫黄の新たなクロストークに迫る学問分野の創成につながると期待されます。
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